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東京地方裁判所 平成11年(ワ)24980号 判決 2000年12月26日

①事件

原告

株式会社富士計器

右代表者代表取締役

伊藤正志

右訴訟代理人弁護士

山口紀洋

鶴見俊男

被告

株式会社総通

右代表者代表取締役

喜多俊憲

被告

有限会社ウィズダム

右代表者代表取締役

山本修嗣

被告

有限会社バニスター

右代表者代表取締役

杉山完治

被告

エフアイ株式会社

右代表者代表取締役

前島秀幸

右四名訴訟代理人弁護士

飯田直久

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは、別紙被告商品目録記載の磁気活水器を製造、譲渡、販売又は販売のための広告をしてはならない。

二  被告らは、別紙被告商品目録記載の磁気活水器を廃棄せよ。

三  被告らは、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する株式会社総通、有限会社バニスター及びエフアイ株式会社については平成一一年一一月一三日から、有限会社ウイズダムについては平成一二年一月二六日からそれぞれ支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告らが製造販売している別紙被告商品目録記載の磁気活水器の形態が、原告の製造販売している磁気活水器の形態を模倣したもので、被告らの行為は不正競争防止法二条一項三号に定める不正競争行為に該当すると主張して、原告らが被告らに対し、その販売等の差止め、廃棄及び損害賠償の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等(認定事実には証拠を掲げる。)

1  原告は、平成一〇年一月六日から、別紙原告商品目録記載の磁気活水器(以下「原告商品」という。)を「蝶々」という名称で製造販売している。

2  原告商品は、水の活性化作用を行うステンレス外包部分(別紙原告商品目録添付図面(1))、取付具(同目録添付図面(2))及びこれを締める四つのナットから構成されている(甲第一号証、検甲第一号証の一ないし三)。

3  被告株式会社総通、被告有限会社バニスター及び被告エフアイ株式会社は、平成一一年二月ころから、共同して別紙被告商品目録記載の磁気活水器(以下「被告商品」という。)を「天使の翼」という名称で製造販売及び販売のための広告をしている。被告有限会社ウイズダムは、被告商品の販売に際して、同社の商号を使用することを被告エフアイ株式会社に許諾した(弁論の全趣旨)。

4  被告商品は、水の活性化作用を行うステンレス外包部分(別紙被告商品目録添付図面(1))、取付具(同目録添付図面(2))及びこれを締める四つのナットから構成されている(甲第一号証、検甲第一号証の一ないし三)。

5  原告商品と被告商品は、ステンレス外包部分の形状及び材質が同一であり(当事者間に争いのない事実)、四つのナットについても、口径、形状及び材質が同一である(検甲第一、第二の各一ないし三)。

二  争点

1  被告商品の形態が、原告商品の形態を模倣したものであるか

2  損害の発生及び額

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

【原告の主張】

(一) 原告商品と被告商品は、主要部分であるステンレス外包部分が同一で、付属的な部分である取付具の形状がわずかに異なるのみであり、商品全体の形態としては酷似している。殊に、双方の商品を蛇口に取り付けて使用している状態では、その形態の差異はほとんど認識できない。

(二) 原告商品の取付具の特徴は次のとおりである。

① 全体に曲線で構成され、中央上部に頭をイメージした凸部があり、左右両肩部が曲線で張り出し、下部も左右に燕尾服様に分かれていること

② 取付具の中央部分に、片翼二本ずつ、合計四本の斜めの孔が平行に設けられていること

③ 幅一〇cm以内、高さ七ないし八cmのステンレスの板であること

一方、被告商品の取付具は、前記①ないし③の特徴をすべて有しており、ステンレスの金属光沢や厚みまで原告商品と同一である。

したがって、原告商品と被告商品の取付具の類似性は顕著である。

(三) 被告らは、原告商品を熟知した上で、付属的な部分にすぎない取付具の形をわずかに変えるだけで被告商品の形態を決定しており、模倣性は明らかである。

【被告らの主張】

(一) 不正競争防止法二条一項三号にいう「模倣」とは、双方の商品の「形態」が同一であるか、実質的に同一といえる程に酷似していることを意味する。また、形態が同一又は実質的に同一かどうかの判断は、商品の一部ではなく全体で判断すべきである。

(二) 原告商品と被告商品の形態上の特徴は、商品名にもなっているとおり、取付具の形状にある。右取付具は、商品の中央部分に位置し、商品全体を覆うほどの大きさがあって非常に目立つのに対し、ステンレス外包部分は隠れて見えないのであるから、形態の同一性の判断に当たっては取付具の形状こそが重要である。

この取付具の形状は、原告商品では「蝶々」をかたちどったものであるのに対し、被告商品では「翼」をかたちどったものであって、全く異なる。

また、水道管を挟み込む形の商品で、取付具を使用して取り付ける場合に、取付具に水道管の太さに対応してボルト部分をスライドできるように斜めの孔を平行に設けることは、機能から必然的に生じる形態である。

(三) ステンレス外包部分は、水道管を挟み込む形の他の同種商品と区別のつくような特別の形状ではなく、デザイン上の工夫もされていない単なるステンレス製の箱であるから、「他人の商品と同種の商品が通常有する形態」というべきである。

原告としても、右ステンレス外包部分の形状の開発に資金と労力を投下したとは考えられない。

(四) そもそも被告商品は、被告有限会社バニスターが原告からOEM契約に基づいて供給を受けるに際して、原告商品と識別できるような新たなデザインを行い、そのデザインについて原告の了解を得たものである。

(五) したがって、被告商品の形態は、全体としてみると、原告商品の形態と同一又は実質的に同一ではないから、原告商品の形態を模倣したものとはいえない。

2  争点2について

【原告の主張】

(一) 原告は、被告らの不正競争行為により、次の損害を被った。

(1) 逸失利益 合計四〇〇〇万円

原告は、被告らによる被告商品の販売行為によって、被告らが販売を開始した平成一一年二月から同年九月までの八か月間に、一か月に一〇〇〇個以上の割合で、原告商品の売上げが減少した。

原告商品一個当たりの利益額は五〇〇〇円以上であるから、原告が被告らの販売行為によって被った損害額は、一か月当たり五〇〇万円、合計四〇〇〇万円を下らない。

(2) 信用毀損による損害

一〇〇〇万円

(3) 調査費用 五〇〇万円

(4) 弁護士費用 三〇〇万円

(二) 原告は被告らに対し、前記損害額合計五八〇〇万円の内金一〇〇〇万円及びこれに対する株式会社総通、有限会社バニスター及びエフアイ株式会社については平成一一年一一月一三日から、有限会社ウイズダムについては平成一二年一月二六日から支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

【被告らの主張】

原告の主張を争う。

第三  当裁判所の判断

一  争点1について

1 不正競争防止法二条一項三号にいう「模倣」とは、他人の商品の形態をまねて、その商品と同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、双方の商品を対比して観察したときに、形態が同一であるか又は実質的に同一といえる程に酷似していることを要する。すなわち、同号は、他人の商品の形態をそのまま模倣するような行為を禁止することによって商品開発のために資金や労力を投下した者を保護する一方で、模倣一般を禁止したのでは、自由な競争や産業の健全な発展を阻害することにもなりかねないため、他人が資本や労力を投下した成果を他に選択肢があるにもかかわらず、ことさら模倣する、いわゆるデッドコピーに限って不正競争行為としたものと解される。

2  原告商品と被告商品が、全く同一でないことは明らかであるから、原告商品と被告商品が実質的に同一といえる程に酷似しているか否かについて以下検討する。

(一) 前記第二の一の事実(争いのない事実等)に証拠(甲第一、第四、第六、第一〇、第一六号証、乙第一号証、検甲第一号証の一ないし三)を総合すると、原告商品の形態は以下のとおりであると認められる。

(1) 原告商品は、水道管又は蛇口(以下「蛇口等」という。)を挟み込むステンレス外包部分(別紙原告商品目録添付図面(1))並びに二つの外包部分を連結する取付具(同目録添付図面(2))及びこれをねじ留めする四つのナットから構成されている。

(2) ステンレス外包部分は、角部分を面取りしたステンレス製の略直方体(6.6cm×6.6cm×約2.4cm)の箱体二個からなり、各箱体の一方の側面からそれぞれ二本の雄ねじが出ており、二個の箱体はねじ留め位置によって可変的な間隔を隔てて対峙している。

(3) 取付具は、蝶々をかたちどった曲線で外縁部が構成された最長縦6.5cm、横一〇cm、厚さ約三mmからなるステンレス製の板材である。中央上部に頭様の半円状の凸部があり、中央下部は大きく凹んでいる。両肩部は大きく張り出して横幅が最長となり、左右対称の羽根部分は下端から約三分の一の辺りで一旦括れ、下部は上部の羽根より膨らみが小さくなっている。

左右の羽根部分には、それぞれ二本ずつ、合計四本の平行な長穴が斜めに設けられている。

(4) 外包部分の箱体から突出する雄ねじは、取付具の裏面側から前記長穴部を貫通させ、取付具の表面側から四個の同一口径のナット(雌ねじ)でねじ留めするようになっている。

(二) 前記第二の一の事実(争いのない事実等)に証拠(甲第一、第七、第九、第一三ないし第一五、第一七号証、乙第一号証、検甲第二号証の一ないし三)を総合すると、被告商品の形態は以下のとおりであると認められる。

(1) 被告商品は、蛇口等を挟み込むステンレス外包部分(別紙被告商品目録添付図面(1))並びに二つの外包部分を連結する取付具(同目録添付図面(2))及びこれをねじ留めする四つのナットから構成されている。

(2) ステンレス外包部分は、角部分を面取りしたステンレス製の略直方体(6.6cm×6.6cm×約2.4cm)の箱体二個からなり、各箱体の一方の側面からそれぞれ二本の雄ねじが出ており、二個の箱体はねじ留め位置によって可変的な間隔を隔てて対峙している。

(3) 取付具は、天使の翼をかたちどった曲線で外縁部が構成された最長縦6.4cm、横8.8cm、厚さ約二mmからなるステンレス製の板材である。中央上部に頭様のなだらかな凸部があり、中央下部は大きく凹んでいる。両肩部は若干張り出しているが、左右対称の翼部分は、括れることなく凹み気味に下に向かって広がり、下端で横幅が最長になり、下部が波状に左右それぞれ三つの山を形作っている。

左右の翼部分には、それぞれ二本ずつ、合計四本の平行な長穴が斜めに設けられている。

(4) 外包部分の箱体から突出する雄ねじは、取付具の裏面側から前記長穴部を貫通させ、取付具の表面側から四個の同一口径のナット(雌ねじ)でねじ留めするようになっている。

(三) 右(一)、(二)認定の事実に前記第二の一の事実(争いのない事実等)を総合すると、原告商品と被告商品について次のようにいうことができる。

(1) 原告商品と被告商品とは、ステンレス外包部分、取付具及び四つのナットから構成されていること、ステンレス外包部分の形状、取付具の長穴部を通じて四個の同一口径のナット(雌ねじ)でねじ留めすることがいずれも共通している。

(2) また、取付具についても、外縁部が曲線で構成されたステンレス製の板材であること、中央上部に凸部があり、中央下部は大きく凹んでいること、羽根ないしは翼部分にそれぞれ二本ずつ、合計四本の平行な長穴が斜めに設けられている限度においては共通している。

(3) しかし、取付具の中央上部の凸部の形状、羽根ないし翼部分の形状は異なっており、特に、原告商品では蝶の羽根様に両肩部が大きく張り出して一旦括れ、下部は上部の羽根より膨らみが小さくなっているのに対し、被告商品では翼様に両肩部の張り出しはさほど大きくなく、括れることなく凹み気味に下に向かって広がり、下部が波状に三つの山を形作っていることから、取付具全体の形状が与える印象は相当に異なったものとなっている。

(四) 証拠(甲第一、第四、第六、第七、第九ないし第一七号証、乙第一号証、検甲第一及び第二号証の各一ないし三)と弁論の全趣旨によると、強力な磁石等を通すことにより、水道水を磁気等で活性化する活水器は、原告商品及び被告商品以外にも存するが、原告商品及び被告商品以外の商品は、磁石等を内包する部分自体を蛇口等を覆うようにして取付具を用いずに取り付けるものであって、磁石等を内包する部分を取付具を介して蛇口等に固定する商品は、原告商品及び被告商品のみであることが認められるから、原告商品及び被告商品にみられる、磁石等を内包する部分を取付具を介して蛇口等に固定する形態は、他に似たもののない形態であるということができ、原告商品と被告商品は、そのような形態が共通するものと認められる。

しかしながら、原告商品及び被告商品における取付具は、いずれも商品の中央部分に位置し、ステンレス外包部分を覆うほどの大きさがあるうえ、右(一)、(二)で認定したとおり、蝶々又は天使の翼をかたちどった特徴的な形をしている(これに対し、ステンレス外包部分は、ステンレス製の略直方体の箱体であって、それ自体は特徴的な形態ということができない)のであるから、取付具の形状は、看者に強い印象を与えるということができるところ、右認定のとおり、原告商品と被告商品では、取付具全体の形状が与える印象は相当に異なったものとなっている。

そうすると、原告商品と被告商品は、磁石等を内包する部分を取付具を介して蛇口等に固定する形態が共通であるものの、取付具全体の形状が与える印象が相当に異なったものである以上、実質的に同一といえる程に酷似しているとまでは認められない。

3  よって、その余の点について検討するまでもなく、被告商品は、原告商品の形態を模倣したものと認めることはできない。

二  以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・森義之、裁判官・岡口基一、裁判官・男澤聡子)

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